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評者が学生の頃の講義では,何年も使っているためボロボロになったノートの内容をひたすら板書している教官が多かった。現在では,わが国において教育の質を高める動きが活発になっており,教育技術の向上のための講習が頻繁に行われている。このような中で,米国の教科書には学ばされるところが非常に多い。特に,Stephen M. Stahlの“Essential Psychopharmacology:Neuroscientific Basis and Practical Applications, Second Edition”(仙波純一訳「精神薬理学エセンシャルズ」)は,高度な内容をわかりやすい図を中心に解説しており,しかも教育用のCD-ROMが原書には付属しているため,評者は学生や研修医の教育にしばしば利用させてもらっている。
このたび,同じ著者による処方の実践ガイドが翻訳されたことは,臨床家にとって新たな武器を手にしたことになる。本書では精神科で用いられる101の薬物それぞれについて,治療,副作用,投薬法と用法,特別な患者,精神薬理学の技法の5項目,および主要な参考文献という同じ書式で構成されており,各項目は簡潔しかも実践的にまとめられている。わが国を中心に用いられているペロスピロンやゾテピンについての記載があるのもうれしい。特筆すべきは,効果があった場合,効果がなかった場合,部分的な反応のあった場合それぞれについての方針が述べられていることに加えて,最後にある「臨床の知恵」の記載であり,実際に薬物を使用する際にきわめて有用である。ここでは,著者の30年におよぶ臨床経験とエビデンスの統合が見事に達成されている。たとえば,「リチウムは最初の気分安定薬であり,なお治療の第1選択である。しかし,古い薬物であり,双極性障害では新しい薬物ほど使用が奨励されないために,十分に活用しきれていないであろう」といった記載にめぐり合うことができる。もちろん,作用機序や副作用の機序についての説明は前著同様に明快である。また,薬の種類の分類や副作用の中で体重増加と鎮静の程度を示すのにアイコンが用いられており,一目でわかる工夫がなされているほか,薬物相互作用,小児と青年期患者,妊娠・授乳についての記載が充実しているため,日常診療で大いに役立つこと受けあいである。
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