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うつ病をはじめとする精神的原因で長期休職する勤労者は年々増加しており,大きな社会問題となっている。さまざまな職種の中で特に教師の長期休職者の増加が著しい。文部科学省の発表によると,2003年度に長期病休した教師は6,017人で,そのうちの3,195人が精神科関連疾患による休職であり5割を超えている。15年前に比べて全体で1.6倍に増加しているが,その増加分のほとんどが精神科関連の疾病によるものである。また一般企業の長期休職者に比べて教師の復職率は低く,休職延長者が多いことが特徴である。教師には授業以外の職種がなく,一般企業のように復職後の職種を変更するなどの環境調整ができないという事情もあるようだ。現在の教師にかかるストレスの大きさと置かれている立場の厳しさに同情を禁じ得ない。実際,日々の外来診療でも数名の教師を診察しているが,業務の大変さをせつせつと訴えられる。学級運営の難しさ,生徒の親の身勝手さ,同僚との関係,教育行政の締め付けなどきりがないが,特に教育現場の荒れは聞きしに勝るものがある。生徒に背を向けて黒板に板書しようとすると,物が飛んでくるので,背後に気を配りながら授業を進めることもあるらしい。私が生徒のころは,よそ見をしていると教壇からチョークが飛んでくることもあったので,当時とは立場が逆転しているようである。ひところ学級崩壊という言葉をよく耳にしていたが,最近はあまり話題にならないので,もう下火になったのかと思っていたらそうではなく,日常的になって別に珍しくないだけだそうである。学級崩壊が起きていないクラス担任の先生もいつそうなるかという不安にさらされている。もともと教師を志望する人はまじめで几帳面な人が多いと思われ,これだけのストレスがあればうつ病を発症するのも肯ける。受診される教師の年齢はさまざまであるが,教師としての力量に関係なくベテランといわれる年齢の人も多く,その分クラスをまとめられないことに対する自信喪失と絶望感は深い。これまでもしばしば言われてきたことであるが,これは教師の努力により解決されるような問題ではなく,生徒とそれを取り巻く環境の変化に原因があり,広く社会的な問題としてとらえるべきである。精神科を受診される教師の方々は最近の社会の変質の犠牲者といえる。
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