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精神医学・医療の進歩にとっての追い風となるような出来事や新たなプログラムが最近目白押しとなっている。卒前医学教育のなかの臨床実習のコア科目に精神科が数年前に加えられ,昨年4月からは研修医の精神科研修必須化によりすべてのスーパーローテーション研修医が精神科に研修にくるようになって,リエゾン精神医療の学びやコミュニケーション・スキルトレーニングがきちんとなされるようになり,精神科の重要性が再認識されてきている。また,日本精神神経学会の専門医制度が発足し,重大犯罪を行った心神喪失者等医療観察法も施行され,精神科だけはずれていた特定機能病院のDPC(Diagnosis Procedures Combinationの略。DPCは急性期入院医療の診断群分類であるが,この分類と医療費の包括払いとを組み合わせた制度のこともDPCと呼ばれる)も昨年7月から退院者の基礎調査だけは精神科でも開始されるようになった。これら施策は実施と整備が同時進行中であるので,ますます衆知を集めてより良い制度にしていく必要があるが,今がきわめて重要な転換期にあることは間違いない。
ところで一昨年6月,政府は厚生労働省から提出された2005年度からの10年間の健康寿命延長戦略を閣議決定したが,精神科七者懇談会などに出席していても議論になっていないようである。この計画は日本人の寿命が世界最高水準となるなかで,QOLをいっそう改善して長寿を過ごすことができるようにする時宜を得たものであるが,その戦略の中心は生活習慣病対策と要介護者対策とからなっている。主要なものを挙げると,現在要介護者が7人に1人であるのを10年後には10人に1人に減らす,糖尿病の発生率を20%現状より減少させるなどの数値目標が提示されている。これらが達成されれば確かに健康寿命延長といえなくもない。ところが,その他の主要なものをみると,10年間でがん患者の5年生存率を20%改善する,心疾患患者の死亡率を25%低下させる,脳血管障害患者の死亡率を25%低下させると続いていて,これらがどうして健康寿命延長なのか,生活習慣病患者のQOLの向上にもっとも関連すると考えられるうつ病の根治的治療,うつ病の一次予防などがこの戦略のどこにも出てこないのはどうしてなのかと考えてしまう。
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