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はじめに
20世紀初頭から,アメリカの総合病院において身体疾患に伴う精神医学的問題に関心が高まり,1939年にはBillings2)がリエゾン精神医学という言葉を初めて用いている。その後,リエゾン精神医学は精神医学の重要な領域として発展してきたが,医学全体がbio-psycho-socialな視点を重要視する昨今,「こころ」と「からだ」を独立したものとみなすのではなく,リエゾン精神医学が提唱してきた「こころ」と「からだ」の関連性がさらにクローズアップされている20)。
一方,リエゾン精神医学が発展する過程において,多様な身体疾患を持つ患者の精神医学的問題への対応策も,各疾患に即した治療戦略が提唱されている。たとえば,癌や腎不全領域のリエゾン精神医学は各身体疾患を抱える患者の精神医学的問題にいかなる援助が適しているかという視点から,サイコオンコロジーやサイコネフロロジーといった分野が発展してきた。一方,心血管領域では,冠動脈疾患発症のリスクファクターの1つとしてA型行動パターンが抽出され,検討が加えられてきた。しかし,1993年に冠動脈疾患に伴う精神症状が死亡率と直接的に関連することが明らかになってから,精神症状,特にうつ病と心血管系疾患の関連を検討した研究が充実し,わが国でもサイコカルディオロジーとして,リエゾン精神医学の一領域として認知されつつある19)。
さて,うつ病は一般人口において時点有病率が3~5%であり,精神障害で最も頻度が高いが,一般人口に比べて,心血管疾患の患者のうちうつ病を有している患者は15~20%と高率である5,10)。しかもうつ病と心血管疾患はただ併存しているだけではない。たとえば,心血管疾患が生じるリスクは,うつ病群では約2倍高く14),また,心血管疾患で死亡するリスクはうつ病群では約4倍にも上る21)とされる。言い換えれば,心血管疾患がうつ病の引き金になり得るし,さらに心血管疾患の予後に影響を及ぼすといえよう。
しかしながら,一般人口におけるうつ病患者が適切な精神科治療を受けているとは言い難い。たとえば,ヨーロッパの大規模な調査によると,うつ病患者のうち,医療機関を受診するのが全体の50%,精神科を受診するのが全体の10%,抗うつ薬を投与されているのが8%という報告13)がある。患者にとって,精神科受診に対する心理的な抵抗もあるだろうし,うつ病の啓蒙や一般医における初期対応が十分でないこともあるだろう。うつ病患者に対する十分な治療が行われていない現状は,うつ病と密接に関連する心血管疾患の治療にも影響を及ぼしていることは想像に難くない。一方で,心血管疾患に通暁していない多くの精神科医は,心血管疾患に伴ううつ病の治療に対し,戸惑いが生じることも否めない事実であろう。
そこで,今回,心血管領域におけるうつ病について概説し,心血管疾患患者のうつ病において配慮すべき点についても検討し,サイコカルディオロジー普及の一助となることを期待するものである。
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