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はじめに
カテーテルアブレーション療法(カテーテル焼灼術)とは,心内に留置した電極カテーテルを介して外部より電気エネルギーを通電し,頻脈性不整脈の原因となっている心筋組織を焼灼・破壊し,もって不整脈を根治せしめる治療法のことである.臨床分野におけるカテーテルアブレーション療法の歴史は,1979年Vedelらが通常の電気生理学的検査時に,持続性心室性頻拍に対して直流通電を行った際,偶然房室ブロックの合併を認めたことに始まる1).彼らは,直流通電がヒス束付近に留置したカテーテルを介して房室結節領域に障害を与え,房室ブロックを作製した可能性を推定した.その後,1982年Gallagherら,Schein—manらは,上室性頻脈性不整脈の治療法として,大腿静脈より経皮的に電極カテーテルを挿入して心内に留置し,除細動装置を用いて背部の対極板との間で直流通電を行い,完全房室ブロックを作製する治療法を報告した2,3).それ以来この治療法は,彼らの報告にならってカテーテルアブレーション法と呼ばれるようになった.
カテーテルアブレーション法に利用しうるエネルギーとしては,直流(direct current)通電エネルギー,高周波(radiofrequency current),マイクロウェーブ,レーザーなどが挙げられるが,最初に用いられたエネルギーは直流通電エネルギーであった(上述).直流通電法においては,瞬時(2〜10ms)に高電圧(1,000〜6,000V)と大電流(20〜50A)の発生がみられる.この時,大量の熱エネルギーと衝撃波が発生し,またイオンの急激な移動による組織障害によって組織が破壊される.直流通電法では,エネルギーが瞬時に発生して組織障害を引き起こすため,焼灼範囲の大きさをコントロールすることは困難であった.また,心臓穿孔・心室細動・心原性ショックなどの重篤な副作用が起こりうることが初期より報告されており,直流通電によるカテーテルアブレーションは決して安全な治療法とはいえなかった.更に,本法を実施するためには全身麻酔が必要となることも本法の普及の妨げとなった.このため,現在では,調節性に富み,障害領域が限局性で,かつ全身麻酔を必要としない高周波通電が主流となっており,直流通電によるアブレーション治療はほとんど行われなくなっている.他方,マイクロウエーブ,レーザーなどの新しいエネルギーを用いたアブレーション治療の実験的検討も1980年代前半より続けられているが,操作性のよいカテーテルの製造が難しいため,臨床応用はほとんど進んでいない4).高周波通電によるカテーテルアブレーション療法の出現により,頻脈性不整脈に対する治療方法は大きく様変わりした.特に,薬物治療に抵抗する根治的治療が外科的手術療法によらずに可能となったことの臨床的意義は大きい.
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