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近年,欧米の文献にColitis cystica profundaなる疾患の症例報告がしばしば登場する.私の知る限り,日本では,昨年末の日本内視鏡学会東海地方会での私の報告が最初のようだ.従って訳語も辞書になく,かりに“深在性囊胞性大腸炎”と訳しておこう.大腸疾患研究での先進国である欧米でも,その報告は40に足りないほどなので,珍らしいには違いないが,粘膜下に存在するCystを見落したり,あるいはその所見を腺の異所性という理由で,腺癌とみなすこともありうるので,この数字は実数より幾分少ないのではないか.目本でも十分注意すれば,もっと発見されるのではないかと思うので,ここでその症例と文献的な知識を御紹介しよう.
患者は64歳女子.主婦.病歴は,昭和45年6月に腹痛と便秘を発現,そのまま放置したが,11月に裏急復重が現われた.昭和46年1月に粘血便をみ,2月愛知県がんセンター外来を受診した.家族歴,既往歴では特記すべきことなし.3月10日入院.便潜血反応は強陽性だが,貧血はなく,その他の検査所見は異常なかった.外来時の大腸透視では,直腸深部からS状結腸にかけて多数のポリープ様陰影が存在し,潰瘍性大腸炎の偽ポリープが疑われた.3月16日の大腸ファイバースコピーでは,肛門から50cmまでスコープを挿入し,50cmから30cmにわたって多数の隆起を認めた.それらの表面粘膜は正常で,粘膜下隆起の所見を呈していた.空気送入による内腔の開きは乏しく,直腸粘膜は全体に肥厚し,粗大結節状を呈していた.40cmの深さで,2個の隆起から生検を行った.隆起表面の粘膜は,あたかも饅頭の皮を剥ぐようにはがれ,その下に白色の粘液を認め,この隆起がCystであることが判明した.組織像は,腸の腺上皮に乏しく,再生型の上皮と,粘膜固有層の細胞浸潤がみられた.粘膜下層に押しっぶされたような管腔を認め,強拡大でみると,それらは上皮細胞を持ち,Cystであることが分った.再生上皮の見られること,細胞浸潤が全体に強いことから,炎症性の産物を想像させる.治療はSalicylazosulfapyridine 6錠を使用.症状は1週間で軽快,8日間の入院で退院.退院後の方針は,薬物療法の他,低残渣食の摂取,6カ月毎のチェックをすすめた.7月20目の大腸ファイバースコピーでは,著明な隆起はみられず,生検でもCysticな所見を得なかった.12月2日の大腸透視では,直腸深部およびS状結腸の病変は軽快し,当初軽かった上行結腸に残存しているが,自覚症状はほとんど消失した.
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