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体液量異常の診断は経験を積み重ねても難しいと感じることが多いです.例えば浮腫.浮腫は原因が多岐にわたることや,身体所見・検査結果いずれも特異度が高いものは少なく,なかなか確定的に物事を語ることができません.自分の体験談で恐縮ですが,筆者が腎臓内科医になり腎不全症例を診療するようになって最初に抱いた疑問は,「腎不全症例のなかでも浮腫のコントロールにかなり苦労する症例もいれば,まったく浮腫が生じない症例もいるが,その違いは何か?」というものでした.患者さんの病態をしっかりと理解できていないので,目の前の浮腫のある症例に,利尿薬を出すべきなのか,食塩制限をすればよいのか,他の浮腫性疾患の合併を考えるべきなのか,まったく方針をつけることができず困ることが多かったのです.
浮腫は食塩摂取量過剰で説明されることが多いですが,食塩を摂取すればレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は抑制されて尿中ナトリウム(Na)排泄は増えるわけで,そんなに単純な話ではない気がしたのです.もっとも,浮腫に対して食塩制限が重要であるという考えを否定するものではありません.後に,蛋白尿そのものが尿細管でのNa再吸収を亢進させることを勉強し,当たり前のことなのですが蛋白尿の存在を重要視するようになりました.つまり,浮腫を認める腎不全症例でも,蛋白尿が出ていない場合には,浮腫を起こすような他の要素を考慮するようになり,浮腫の症例に対して,短絡的に「利尿薬処方」とせず,利尿薬を処方しなければならないような体内の病態生理を検索するようになり,常にうまくいくわけではなく困ることも多いのですが,心臓弁膜症や,近年問題になっているCa拮抗薬の処方カスケードなどにも気づきやすくなったように思います.
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