特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性
扉
氏家 無限
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1国立国際医療研究センター国際感染症センター
pp.418-419
発行日 2022年3月10日
Published Date 2022/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402228088
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「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とは,困難に苦しんだことでも,過ぎ去ってしまえば,その苦しさも簡単に忘れてしまうことを意味することわざだが,ワクチンの扱われ方にもそんな一面がある.予防接種を受けることで獲得される免疫は,将来の罹患するかもしれない感染症を予防してくれるので,接種を受けた個人はその恩恵を自覚することができない.接種を受けていない人と比較することで初めてその効果を客観的に確認することができる.つまり,普段から定期接種などで当たり前に使用しているワクチンで得られている恩恵を実感する機会はほとんどない.社会の衛生環境や医療体制が改善し,感染症の疾病負荷が軽減されると,ワクチン接種後の有害事象がよりクローズアップされるようになり,1990年代頃から続くワクチンの積極的な利用や開発を軽視する風潮は,ワクチンギャップなどの原因となり,現在もその影響が継続している.
ただし,新興感染症が社会問題化すると,既存のワクチンがないため状況は異なる.2009年に問題となった新型インフルエンザの流行では,結果的に病毒性が低く季節性インフルエンザと同様となったが,ワクチン活用の重要性が見直され,2013年度より約20年ぶりに予防接種法に基づく定期接種が大きく刷新されるきっかけとなった.そして,2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックでは,改めて予防対策の必要性,ワクチンの重要性が再認識されることとなった.全成人が新たに開発された新型コロナワクチンの対象とされるなか,社会全体でワクチンの活用を改めて考え直し,今後の日常診療でも予防医療の在り方を見直すきっかけとしたい.
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