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稲次直樹先生は1970年のご卒業である.私の一回りより上の大先輩であり,既に50年のキャリアを重ねておられる.しかし直接お目にかかった印象は,とにかく若々しくエネルギッシュである.情熱を持続させることの難しさを痛感する昨今であるが,かくも永きにわたり第一線で大腸肛門病の診療に携わってこられたことにまずは敬意を表したい.外科医である稲次先生と私の接点は主に大阪で開催されている「大腸疾患研究会」であるが,これまでに実にいろいろなことを教えていただいた.その稲次先生が多くの協力者や共同研究者とともにワンチームとして咲かせた大輪の花が『「おしりの病気」アトラス[Web動画付]—見逃してはならない直腸肛門部疾患』である.
本書の第一印象は,見た目に何とも美しい.表紙の赤とクリーム色で塗り分けられた「おしり」のデザインはシンプルでいて洒脱である.大判の本を手に取ってみると,程よい重さと滑らかな手触りで非常に心地よい.扉を開くと1ページ4〜5枚大迫力の「おしり」の画像が黒を背景に26ページにわたって押し寄せる.ソフトなタイトルとは裏腹に中身が極めてハードであることを予感させる.続く本編のⅠ編「直腸肛門部診療の基本」には必要な基礎的知識が全て盛り込まれているが,手間暇かけたシェーマがふんだんに用いられている.Ⅱ編「直腸肛門部疾患アトラス」は本書の核心部分であり,多くの疾患の画像が提示されるとともに,凝縮した解説が加えられている.それにしても何と掲載された画像の多いことか! 帯紙には“画像・イラスト約1,250点”と記載されている.疑り深い私が実際に数えてみたところ,実に写真が1,025点,イラスト(シェーマ)195点,加えて盛りだくさんの表やチャートが40点以上と宣伝文句に偽りはなかった.画像の多い本は一般に字が大きく文字数が少ないものであるが,さにあらず.相対的に小さい文字がびっしりと並び,内容が濃いことこの上ない.巻末のⅢ編「内科医・内視鏡医が知りたかったQ&A集」や付録「おしり問診票」も気が利いている.外科医が内科医の視点を持つことは難しいと思うが,それができているところがただ者でない.まさに痒いところに手が届く気配り満載である.所々に埋め込まれたQRコードにスマホをかざすと,「おしり」のアイコンが現れ「鑑別診断トレーニング(略して“尻トレ”)」や診察・手術の多数の動画が閲覧できる.
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