- 有料閲覧
- 文献概要
異常値に対する考え方
bicarbonateとPaco2の異常に遭遇した時には,背広を着たドロ棒と,それを追いかける私服刑事を見かけたような判断の難かしさを要求される.つまり一見した限りではヨタ者が善良な一市民を追いかけているのか,ドロ棒を私服刑事が追いかけているのか見当がつかない.
すなわちbicarbonateとPaco2,の動きは連動しており,同じ方向に動くことが多い.このような原因と結果を混同しやすい現象は生体の恒常性維持機構の働きによるものである.つまり,「bicarbonateとPaco2との間には,両者の比率が動脈血pHを自動的に決定する」という物理学的・数学的な法則があるため,生体はpHの恒常性保持のために「片方が病的にふえれば,他方をhorneostaticにふやす」からである.このような合目的々な生体反応はcompensationと呼ばれ,酸塩基平衡失調が生じても動脈血pHが可及的不変に保たれるようになっている,したがって常にデータのウラを読む姿勢が必要であり,そのためには臨床経過,患者の現状を熟知していると同時に,動脈血O2分圧(Pao2),「血液ガス分析と同時に採血」した血漿……血清Na,Cl,K,BUNのデータが揃っていなければならない.これらのデータが不揃いのまま,血液ガスのデータだけで病態を判断し治療すると,致命的な誤ちを犯す可能性がある.また血液ガスの測定は後述のように最近のあまりにも自動化された測定機器の進歩によって,測定技術者の実力能力が入り込む余地がなく,完全に「器械に振り廻される」可能性が高くなった.したがって,もしも「患者の状態が良いのに,血液ガスのデータだけが死ぬほど悪い」という立場におかれたら,血液ガスのデータは完全に黙殺すべきである.
Copyright © 1975, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.