症例にみる精神身体医学
心臓神経症
石川 中
1
1東大・心療内科
pp.878-880
発行日 1973年7月10日
Published Date 1973/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204822
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はじめに
内科の外来を訪れる心身症として,比較的多いものに心臓神経症がある.心臓神経症は「心臓・血管症状を前景に示す神経症」と定義されているが,前景にある身体症状としては,動悸,息切れ,めまい,手足の冷感,手足のしびれといった同一系統の循環器系の症状を示しても,その基盤にある神経症のタイプとしては,不安神経症,ヒステリー,強迫神経症,心気症,抑うつ症といったふうに,色々のものがあり,決して同一の精神状態像ではない.
心臓神経症の中では不安神経症タイプのものが最も一般的である.不安神経症という概念は,フロイトがはじめて提唱した疾病単位であるが,彼の不安神経症の症状記載の中には『……不安の感覚に一つまたは多くの身体機能の障害,すなわち呼吸,心臓の働き,血管運動の支配,分泌機能の障害が結びつくこともある.これらの組み合わせから,患者は,ある時はある契機を,ある時は他の契機をひきだして,「心臓のけいれん」,「呼吸困難」,「発汗」,「激しい空腹」などを訴え,その供述では不安感情が,しばしば全く隠れてしまったり,それと気づかずに「具合が悪い」とか「不快だ」とかいうのである』といった記載,あるいは「心臓機能の障害としては動悸,短期間の不整脈,長くつづく頻脈や心臓のひどい衰弱状態などを伴うもので,これと器質的な心臓病との鑑別は必ずしも容易ではない.これを擬似狭心症などというが,診断上厄介な領域である」といった記述もあり,不安と循環器症状が互いに密接な関係にあることはフロイトの時代から知られていた.ここに,典型的な不安神経症タイプの心臓神経症の症例を紹介してみよう.
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