海外だより
アメリカの足
川合 厚生
1
1スタンフォード大学医学部生理学教室
pp.564-565
発行日 1965年4月10日
Published Date 1965/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200789
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□自動車はぜいたく品というより必需品□
アメリカにおける自動車(自家用車)のめざましい普及については,くる前から十分予備知識を仕込んであつたから,さほど驚くことはなかつたが,公共の交通機関のあまりの未発達なことには意外の感をもたざるをえなかつた。都市間の交通はさておいて,問題は市内交通である。私の住む人口5万のこの町には,数本のバス路線があることはあるが,網の目のように張られた日本の都市のそれと比較すれば,ほとんどなきに等しい。しかも,土地はむやみと広いから,その不便さは言語に絶する。だからこそ,自家用車がこんにちのようないちじるしい発達を遂げたのかもしれない。あるいは反対に,自家用車のために,公共の交通機関の発展がおさえられてきたのかもしれない。それはともかく,自動車はここではぜいたく品ではなく,必需品であるといわれるわけが,よくわかつたような気がした。この町の人たちも,各世帯に少なくとも1台は車をそなえている。夫婦仲よく1台ずつ持ち合わせている家もある。おもしろいのは,家々の構造があたかも自動車が大事な家族の一員であるかのように,車庫が家の一部として組み入れられ,しかも,それがたいていの場合,家の正面にでんと据えられていることだ。そのかげに本屋がドァをへだててつながつている。私はこれを見て,いつか北日本で見た馬小屋と母屋が木戸1枚を境につながつている農家の構えを連想したものだ。
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