ファースト・エイド
溺水の救急処置
小森 栄一
1
1日本赤十字安全課
pp.710-712
発行日 1964年8月10日
Published Date 1964/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200415
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
水を吐かせることが第一ではない
DR Hossli*がつぎのようなことをいつている。『O2供給を完全に閉塞する事故として,昔から"溺水"が知られている。脳に02供給が杜絶すれば,1分以内に意識不明となり,3分後には脳は大なり小なりの範囲にわたって損傷をこうむる。約8分経過すれば,いかに巧みな人工呼吸や心臓蘇生の方法を講じても,蘇生の見込みはほとんどない』
『口中ならびに咽頭の異物,食物・血塊などの排除は,原則的にいつて,suction pumpによつてのみ有効に行なえる。だが溺水者の気道深部から,相当量の水(a considerable amount of water)を排除する方法はない。淡水に因る溺水では,ふつうの場合は肺胞には水はない。"それは気道末梢部までの浸水がないか,あるいは水はすでに血液中に吸収されているからである(hydremia水血症)"。塩水における溺水では,肺胞内に残水を見る。しかし頭を下げたり,気道から吸収したりする方法で,顕微鏡的微細な肺胞から,水を排除することは不可能である。口,咽頭,気管支(bronchial tree without alveoli)に水が満ちれば150〜200mlになる。この水が排除されないで,末梢に入つたとしても,重大なことではない。肺胞の全容量はこの水の30倍の約6000mlにもおよぶからである。
Copyright © 1964, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.