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本書は,第一線の臨床現場において呼吸器疾患診療に長年にわたり携わるなかで,診療に真摯に取り組まれ,また,後継となる若き研修医の育成に尽力されてきた第一級の臨床医により執筆されている.本書の基本姿勢が,「臨床医学は万国に共通する“一般常識”の下に取り組まれるべきとする編者の医療哲学と,従来の偏向した趨勢に歯止めをかける目的をもって,若い呼吸器科研修医や専門外の諸先生方を対象として編纂された(序文)」とあるように,実地臨床に密着した,かつ,高いエビデンス・レベルに基づくわかりやすく,使用しやすい呼吸器診療を学ぶ医師のためのベッドサイド診療指針となっている.第1章の最初のページに,「かつて診断の基礎として重要視された問診・身体所見診療法が次第になおざりにされてきている.――(略)――患者の自他覚症状は常に病態・生理学的に解釈を試みることが重要である.」と編者の意図が明確に示されており,大変好感が持てる一冊である.また,呼吸器症状の詳細と診断学的意義の「痰」の項目では,「寝床にティッシュ・ペーパーを置いている場合には,1日痰量が30ml以上,痰壷の場合には100ml以上の痰量を示唆する」と,さらっと記載されており,執筆メンバーの知識に裏付けられた臨床的経験の深さを推測するに難くない.
呼吸器疾患は,急性期の呼吸管理から,慢性呼吸管理まで,また,肺炎・結核をはじめとする感染症から,アレルギー・免疫性肺疾患,さらには,肺癌をはじめとする腫瘍性疾患まで,取り扱う疾患の範囲は幅広く,呼吸器という専門性を有した内科医としての総合的な能力が要求される.これらの内容をコンパクトな一冊にまとめることは大変な作業であるが,この点においても本書はよく考えられている.第1章「呼吸器疾患の診断へのアプローチ」,第2章「呼吸器救急の実際」と構成されており,これだけでも初期臨床研修や後期臨床研修の研修医マニュアルとして大いに役立つ内容が盛りこまれている.さらに,第3章「主な呼吸器疾患の診断と治療」,第4章「慢性呼吸不全の診断と治療」,第5章「睡眠呼吸障害の診断と治療へのアプローチ」と構成され,common diseaseを中心とした各論がわかりやすい図表とともにまとめられている.最終章の第6章では,これも編者の意図するところであるが,「呼吸器疾患と社会との関わり」として,医師として身につけておくべき地域福祉資源との連携から,届け出書類のノウハウまで簡潔にまとめてある.
本書は,まさしくレジデントの諸君が白衣のポケットに忍ばせ常に診療の指針として役立てていただけるすばらしい一冊である.
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