今月の主題 苦手感染症の克服
HIV感染症
Editorial
山元 泰之
1
1東京医科大学臨床検査医学講座
pp.558-559
発行日 2009年4月10日
Published Date 2009/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402103847
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本邦におけるHIV感染者の累計患者数は2008年末に15,000人を超えた.2000年時における,2010年でのHIV感染者数の将来予測値が50,000人前後とされていたので,望ましい方向へ予測が外れたといえなくもない.しかし,社会をさほど吃驚させないレベルで着実に浸潤していく現在の状況は,この巧まざる生態をもつウイルスと人類は永くかかわっていかざるを得ないことを想起させる.予測を下回るとはいえ,現在の増加速度を維持するとすれば,5~6年で現在の2倍の30,000人前後のHIV感染者数となろう.このため,都市部の医家では,HIV医療に携わるか否かを別としても,HIV感染者となんらかの形で交叉する確率は高いと思われる.
HIV感染症の治療分野では,1995年前後までは使用できる抗HIV薬,抗日和見感染症薬も少なく,重症化して絶命するまでなす術もないという状況であった.しかし,そのような状況は1996~1997年に先進諸国で使用可能となったプロテアーゼ阻害薬を含む多剤併用療法(highly active anti-retroviral therapy:HAART)によって一変することになる.後退しながら局面を取り繕うのみの医療から,前進する医療へ変化したのである.1996年当時は20カプセルほどの大量の薬剤を服用する必要があり,数年内のうちにHAART服用者が脂肪代謝異常や糖代謝異常を発症する事例が多発するなど,蜜月はそう長くは続かなかった.しかし,間近な死は遠ざけることが可能になったのである.
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