目でみる保健衛生データ
結核
森 亨
1
Tohru MORI
1
1結核予防会結核研究所
pp.728-729
発行日 1991年10月15日
Published Date 1991/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900446
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1.低蔓延の中のかげり(図1)
図1は1970年以降の日本の結核の罹患率の推移をみている.1979年頃までは年々約11%(対前年比)ほどずつ低下し続けてきたが,その頃から急に低下速度が鈍くなり,その後10年間以上にわたり約3.5%という減少率に留まっている.これが日本の高齢化だけで単純に説明できないことは年齢階級別の傾向線をみれば明らかで,若年者に「膝折れ」がむしろ著しい.これは全結核(肺結核と肺外結核を含んだすべての新登録例)についての傾向であるが,感染性肺結核(排菌陽性例と空洞例)はこの10年間ほとんど横ばいであり,なかでも感染源として最も重要な「塗抹陽性肺結核)の罹患率の傾向は,この図に見るように,当初微減,1985年頃からは明らかに増加に転じている.また年齢別にみると,高齢者ではこの間一路増加傾向をたどっていることが知られているし,若年者でも横ばいである.
かつての高蔓延時代に感染を受けた世代が高齢化し,これに(おそらく年齢以外の)なんらかのリスク要因が作用して発病が促され,周囲にいる無防備の若年者にもろに影響を与える,また種々のハイリスク集団への患者の集中化による患者の重症化が促される,といったことが起こっているのであろうが,これに医療の側のぬかり(診断の遅れ,対応の手抜きなど)が事態を複雑にしているようなことがないか気になる.
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