新・視点
仕事の世界(World of Work)と公衆衛生,そして新型コロナウィルスパンデミック
氏田 由可
1
1国際労働機関アジア太平洋地域局
pp.360-361
発行日 2021年6月15日
Published Date 2021/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209633
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はじめに
本稿を執筆している2021年1月現在,ヨーロッパは新型コロナウィルスパンデミック第二波の真っ最中で,筆者の住んでいるスイスも飲食店や小売店,レジャー施設が閉鎖されたセミロックダウン状態です.昨年春からさまざまなレベルで続いていた行動制限に耐え,みんなが楽しみにしていたクリスマスや新年のお祝いも各家庭で家族のみとなり,静かで少し寂しい年明けでした.
幼少時から医者という職業,中でも病気の予防に興味のあった筆者は,産業医科大学に入学して間もない時期から公衆衛生学教室にお邪魔し,以来30年以上にわたりこの分野を学び続けてきました.しかし2020年ほど「予防」という言葉を耳にし,自身が口にしたことはなかったかもしれません.それほどこのパンデミックは,人々の生活や認識に大きく影響しました.国際労働機関(ILO)は,2020年の世界の労働時間が2019年第4四半期と比べて8.8%損失し,それは2億5,500万人のフルタイム雇用に相当すると推定しています1).社会や経済へ深刻なインパクトを与えたのは雇用の動向だけではありません.人々の働き方も大きく変わりました.その第一の目的は労働者の感染予防です.これに加え,職場あるいは労働という活動を介した感染を予防し,流行拡大の抑制に貢献することが求められます.
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