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はじめに
2015年に第21回気候変動枠組条約締約国会議〔COP21. COP:conference of the parties〕で締結されたパリ協定は気候変動政策のメルクマールである.気候変動による深刻な危機を回避するために,温度上昇を摂氏2℃に抑制する目標が掲げられた.また,京都議定書(1997年)から離脱した米国はもとより,京都議定書のもとでは削減義務を持たなかった中国をはじめとする新興国,ならびにその他の発展途上国が,自国の温室効果ガス排出の削減あるいは抑制を約束した.このパリ協定を契機として,新興国・途上国も排出削減目標,あるいは抑制目標を掲げることとなった.
パリ協定までの地球温暖化対策は,先進国が温室効果ガスの排出を削減することであった.国際的な気候変動政策の最初の本格的な取り組みである京都議定書では「共通だが差異ある責任」という考えに基づいて,それまでの温室効果ガス排出に責任がある先進国が削減義務を負った.わが国は2008年〜2012年の第一約束期間に1990年比で6%削減することとなった.欧州も削減義務を負ったが,発展途上国に義務はなかった.
しかし,京都議定書の下でも,途上国での排出削減が行われてこなかったわけではない.同議定書のもとでは,クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)という制度が設けられた.排出削減の義務を持つ先進国が,義務を持たない発展途上国での排出削減に投資することによって「削減クレジット」を得ることができた.実際,多くのプロジェクトが実施され,排出削減に貢献した.しかし,CDMについては,後述するような問題点が指摘された.そのため,日本政府は「二国間クレジット制度」を提唱してきた.
上記のような先進国中心での排出削減は,パリ協定を境に変わった.途上国でも排出の削減,あるいは抑制目標を掲げることになったからである.この削減目標にいかに実効性を持たせるかが課題となっている.その一つの手段として耳目を集めているのが「カーボンプライシング」(carbon pricing)である.これは,市場メカニズムを用いた排出削減の方法である.経済学的には削減目標を低い費用で達成できることが知られており,パリ協定の前後から,先進国も含め世界的に注目を浴びている.
本稿では,新興国,途上国それぞれにおける排出削減に向けた取り組みを紹介する.まず,途上国で実施されてきたCDMを紹介する.そして,CDMの問題を改善するために日本政府が提案した二国間クレジット制度を紹介する.次に,新興国での排出目標に実効性を持たせる政策手段としてのカーボンプライシングについて,その導入状況を含めて紹介する.
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