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はじめに
わが国で制度としての予防接種が確立されたのは,1948年の予防接種法の制定によってである.当時の感染症(伝染病)の流行状況に対して強力な社会防衛を行うという観点から予防接種は国民への義務となり,個人の費用負担はないが,予防接種の会場を設定しての集団接種を行い,違反者には罰則を課するという強制のもとでの接種としてスタートした.その後,ワクチンの進歩,疾病構造の変遷,副反応の発生状況,社会情勢などによって,対象疾病,対象年齢,接種方法,ワクチンの種類(内容)などについても多くの見直しや改正が行われてきた.
1994年には,“予防接種の努力義務化”(受けなければならないという表現から,受けるように努めなければならないという表現への変化:勧奨接種),集団接種から個別接種への移行,予防接種による健康被害に対する救済制度の充実などの予防接種法の大きな改正が行われた.副反応の把握については,それまでは健康被害救済の認定件数や予防接種副反応研究班による調査などによっており,全国的なモニタリングは行われていなかった.正常範囲にとどまる副反応を含めた予防接種後の副反応の発生状況をより幅広く把握するため,1996年から「予防接種後副反応報告」と「予防接種後健康状況調査」の2事業が行われている.
2013年にも大きな改正が行われた.予防接種基本計画の策定,いわゆる“ワクチンギャップ”の解消を目指して,Hibワクチン・小児用肺炎球菌ワクチン・ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの定期接種化,予防接種に関する評価・検討組織の設立,サーベイランスの強化などがなされた.そして,副反応(疑い)報告については,予防接種法に基づいた医療機関・医師による報告を法定化し,さらに,その評価を厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会において年に数回程度行うこととされた.また,従来の副反応報告制度は定期接種対象ワクチンに限られていたが,医薬品医療機器等法による任意接種ワクチンの届け出と一本化したため,定期・任意にかかわらず同一のシステムでモニタリングが行われるようになり,評価されるようになった.
2016年8月には名称が「予防接種等による副反応の報告」から「予防接種等による副反応疑いの報告」に改められ,副反応と確定したものの報告ではなく,その疑いを含めた幅広い報告〔有害事象(adverse events)報告:日本薬学会による薬学用語の解説では“薬物との因果関係がはっきりしないものを含め,薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候,症状,または病気”を有害事象(adverse event)という.有害反応(adverse reaction)は,病気の予防,診断,治療に通常用いられる用量で起こる好ましくない反応であり,薬物との因果関係があるものを指す.〕を求めるものであることが明確にされた1).
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