衛生公衆衛生学史こぼれ話
28.女王陛下の疎開
北 博正
1
1東京都環境科学研究所
pp.458
発行日 1986年7月15日
Published Date 1986/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207294
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大気汚染といえば,火山の噴煙などの自然的大気汚染よりも煤煙などによって起こる人為的のものを考えるのが普通で,それも蒸気機関が発明されてから始まった産業革命(18世紀後半〜19世紀前半)により,まず英国に始まったといわれている.
しかしそれ以前にも英国では大気汚染があり,被害も大きかった.これは暖房の熱源に薪を使っていたものが,段々と資源が枯渇して値上がりし,代わりに石炭を使いはじめたが,この地方は冬に霧が発生するという特有な気象条件と重なって,いわゆるロンドン・スモッグという名物にまでなったのである.時の女王エリザベスI世(1558〜1603)が煤煙で喘息発作が起こるというので,ウエストミンスターの醸造業者が石炭の代わりに薪を燃料とするよう協定したり,女王がロンドンからノッチンガムに疎開するという騒ぎまで起こった.
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