特集 地域住民と環境保健
精神衛生と地域住民
大塚 明彦
1
1木更津病院
pp.145-149
発行日 1975年3月15日
Published Date 1975/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204971
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精神衛生と言う言葉
「知に働けば角が立つ,情に棹させば流される,意地を通せば窮屈だ」と夏目漱石は書いている.人と人との付合いの難しさを表現している文章として有名であるが,最近,「精神衛生」と言う言葉が濫用され気味の様に思う.どの時代でも人間関係の難しさは大して変りないと思うが,その妙薬か,または,人間管理かのように「精神衛生」が語られ,「精神公害」と言う新語も造られた.「職場の精神衛生」,「学校の精神衛生」果ては「騒音公害と精神衛生」等々提唱者の立場によって巧に使い分けられ,一種のブームの観がある.この現象は「福祉」と言う言葉が各々の立場で濫用されて,ついに風化現象を起して来ていることを思い出す.「健康な精神を育てるために」,「得がたくてしかも損われやすい心の健康の保持のために」等が「精神衛生」活動の全てであるかのように一部では言われている.
また心配事悩み事相談,ノイローゼの人達のカウンセリング,または職場の労務管理を精神衛生活動の対象者と限定して,意識的に精神障害に悩む人達を医療分野として避けている関係者が多いようである.しかし,身体の医学で肉体的に完全な「健康」は理想像であるが現実的には幻想に過ぎないのと同様に,精神の健康保持を余りに強調したり,精神の健康とは何か,病気とは何かを熱心に論ずることは余り意味のあることではない.
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