特集 家族
開業医と家族
田辺 正忠
1
1医療生協早稲田診療所
pp.275-282
発行日 1973年4月15日
Published Date 1973/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204654
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社会の矛盾を見せつけられる開業医
その日の仕事を終えて手を洗おうとしていた時のことでした.異様なわめき声をしながら取乱した一人の女性が,子供を抱えて診察室に走りこんできました.脈も触れず,呼吸もとまり,心音も聴取できません.震える手で救急処置をし,110番に連絡し,家族に電話しそれからの30分間は,看護婦も事務も私も総がかりで無我夢中でした.父親は32歳の会社員で,母は小さな出版社の事務員をしている共働き世帯です.上に6歳と4歳になる男の子がいます.ミナ子ちゃんは生後4カ月で発育はあまり良い方ではありませんが格別に変ったこともありませんでした.生下時体重2780gで,生後40日ほどで私設の託児所へ昼は預けられました.子供は朝出勤の時に母が連れて行き帰りは託児所の人が送り届けてくれるのでした.その日は用事が忙がしく母の帰りが40分ほどおくれ荷物を一度三階の部屋に置きに戻りました.夕食の買物をするために二人の男の子を残してアパートを飛び出したところでミナ子ちゃんを抱いてきた高校生に会い,自分の部屋のベッドにいつもの様に寝かしておくように頼んで出掛けました.30分ほど買物をして部屋に戻るといやにおとなしく赤ちゃんがベッドにふさっているのでゆり動かしてみたらもう息をしていなかったというのです.小児科の同僚の医師の話では,もう寝返りもできる筈だから窒息をすることも普通はないのだけれどとのことでした.
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