人とことば
科学者と実践
高橋 晄正
pp.181
発行日 1968年5月15日
Published Date 1968/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203665
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医学者といわれる人のなかには,「科学者ははっきりとした根拠なしに意見を述べたり,行動したりしてはならない」という立場を当然のことと考えている人がある。しかし環境の医学あるいは公衆衛生学の問題において,そのような科学者が満足して意見を述べたり,行動をしたりすることができるような決定的なにとがありうるだろうか。彼らは,そのことのゆえに,その専門領域の問題について,どのような行政措置をとるべきであるかを行政官庁から諮問されたときでさえ,正しく助言することをしないのである。
そのなかに極く少数の人たちは,ほんとうに心の底からの不可知論者であって環境医学のような,いつでも多少のあいまいさを拭いきれないような現実の世界についての実際的な学問をするのには,不向きな人であるかも知れない。しかし残りの大部分の人たちは,助言を拒否することによって,進行しつつある現実―それは国民の健康を侵害している現実であることが多のだが―を停止させることの責任をとることを拒否し,侵害されゆく国民の健康にたいして傍観者であろうとするのである。そして,残念なことには,そのなかには科学の名において,監督責任のある時の権力者におもねたり,あるいは危害を加えた企業経営者の方を向いたりしている人たちが多いのである。(中略)
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