特集 人災と健康—第7回社会医学研究会・主題報告と総括討論
主題
「いわゆる白ろう病」と「三池炭鉱災害CO中毒後遺症」の社会医学的問題
野村 茂
1
,
南 吉一
2
1熊本大学医学部衛生学教室
2大阪府茨木診療所
pp.602-606
発行日 1966年11月15日
Published Date 1966/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203364
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労働は人間社会の根本的要件であり,人間の進歩発達の基本的契機であるが,労働手段としての生産技術と人間生理の適応の破綻を直視するときに,労働衛生の問題が認識される。そして,職業生活におけるこのような条件と並行して頻発する職業病と災害事故は,労働者の最も深刻な生命の脅威であって,労働衛生の当面の対象は,これらの防遏にあるといってもよい。これらの健康障害は労働条件に伴って,それぞれの様相をもって発生するが,その発生要件は産業構造と生産手段とに密着しており,とくに最近のわが国における職業病や災害の発生は,産業技術の開発と,それに伴ういわゆる合理化に根ざしている。その対策を樹立するには,その基盤となる社会的要件を明らかにしていく必要がある。
半世紀以上も昔に,西川光次郎先生は新聞紙上で,労働者の病気は,労働と食物と住家によるが故に,これは「人造病」というべきものであり,「医薬をもって治し得べきものにあらず。」と論じている。同じ頃に片山潜は「社会主義」誌上において,「炭坑夫の生命は芥の如し」と述べ,「比較的完備せる」三井三池炭坑でも,「毎日平均2人半強の死亡者あり………昨年の如き約1万余の中より800人余の坑夫は死亡せりという。またもって驚愕すべきにあらずや。」と説いている。さらに,内村鑑三も,じん肺の害を論じて,「貴き生命を犠牲にして,その工業の繁栄を図りつつある。これあに明白なる殺人罪ではないか。」と喝破している。
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