特集 屎尿と塵芥処理
ふん尿及びじん芥処理の現況
楠本 正康
1
1前厚生省環境衛生部
pp.4-7
発行日 1957年9月15日
Published Date 1957/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201870
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史的背景
日本では,古くは川や沼の上に便所をしかけてここでふん尿を水とともに流し去る処理方法と,空地に穴を掘つてここで用をたし,一杯になるとまた別な場所に穴を掘つて便所とする方法とが一般に行われていた。古事記の丹塗矢のもの語りに便所に入つた美女を下からいたづらしたことが記載されているが,この便所はかわやと呼ばれ,おそらく,川の上に作られた清楚なものであつたにちがいない。万葉の古歌にも広々とした野原で用をたしている歌がみられているが,これも当時のす掘便所の様子を表現したものと思われる。こうした原始的な便所は,いまでも一部に見られている。山間の温泉地や観光地などには,かわや式の便所がよく使用されている。河川の汚染は別として,便所そのものは,何の臭気もなく,まことに快適で,いわゆる水洗便所の様式である。高野山では,つい最近まで,山の清水を竹の管で水槽に導き,ここから各戸の台所の水槽に送り,あふれた水を便所に流して,汚物を洗い去つて,この水は最後に有田川に流れ込んでいたが,この有田川にそそぐところに「清め不動」をまつつて民心の納得をはかつた。
ところが,鎌倉時代になると全国的に開墾がさかんになり,農業が発達するにつれて,まず緑肥とともにふん便は肥料として重要な価値のあるものとなつてきたので,これを一ヵ所に貯えておく必要が生じた。
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