論述
原子と健康
宮入
pp.465-466
発行日 1947年4月25日
Published Date 1947/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200137
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ある年輩の人が怪我をした。彼の脚は粉粹され有毒感染がおこり切斷を必要とした。さて外科醫は膝の上か或は下かで切るのを決めねばならぬ。膝關節を助けることは患者が再び歩くのに一層樂であるが,若し筋肉がもはや助けられない時には他の方法,すなはち膝を助けない手術をせねばならぬ。患者の腕に看護婦が放射能鹽溶液を注射し,患者の傷ついた膝のそばにはGeigerの波長測定器が置いてある。それは放射能を探知する電子的器械である。計器は急に或は又た強く記録してゐる。放射能鹽は患者の血液の中に入つて腕から膝關節に運ばれて行つた。そこまでの血液循環は障碍されてはゐない。かくして膝は助けられる。
これは原子が醫學的保護と健康増進に用ひ初められた方法中の一つである。原子は唯だ診斷用に用ひられるばかりでなく,ある種の癌の實際の治療にも用ひられる。更に一層重要なことは生物學の基礎的研究に用ひられることである。研究や診斷に放射能物質が利用される方法は,科學者が恰も探偵が目印しをつけた金をある嫌疑者に渡すのと同じ役割を演じて居る。疾病の原因を探求し,又た自然の秘密を解明するにあたつて現代の科學者は放射能原子を利用することが出來る。
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