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はじめに
2010年の中国の国勢調査によると,浙江省(日本の県に当たる)の65歳以上の高齢人口は約508万1,700人で,総人口の9.34%(全国平均8.87%)を占めている.近年は人口の高齢化による要介護高齢者の急増に伴って介護サービスの供給不足や費用負担が,社会保障システムと家庭生活を揺るがしかねない新たな社会問題として注目を集めている.早急に介護保障制度を構築する必要性は高齢化社会における共通の認識になっており,とりわけ介護費用の保障は重要課題である.
先進諸国は,介護費用の保障を政府財政によって福祉事業として位置付けたり,医療保障の下での介護事業を行ったり,さらに日本のような介護保険制度を創設するなど,多様な仕組みを創出している.それの共通の目標は,介護を必要とする高齢者が介護費用の過大な負担に脅かされず,世間並みの介護サービスを受け,人生の最期まで尊厳をまっとうできるよう,彼らの暮らしを支えることである.
浙江省では,こうした先進国の経験に学び,「本省の実情に見合った高齢者介護費用の保障システムの整備」が政府の公共政策研究の緊急課題として位置付けられて検討が始まった.筆者ら研究チームは,高齢者介護費用の保障システムの創設に必要な基礎資料を得るために,2012年5月より2か月をかけて,ランダムに抽出した省下4県計8地区(市,区を含む)と16個の郷鎮(日本の市区町村に当たる)に対し,各区域内の施設入所や在宅の要介護高齢者全員を対象にアンケート調査を行った.
調査結果から把握された施設や居宅の要介護高齢者が実際にかかった介護費について,日本やドイツ,イスラエルなど8か国の介護関連制度における実績と比較研究を行って,独自の社会救助型と社会保険型の2種類6パターンの介護費保障制度案の提案を試みた.
本稿では上記の調査で得られた浙江省の要介護高齢者の介護特性や介護費用の実態を紹介するとともに,浙江省における高齢者介護費の予測や保障システムについて比較し検討を行う.
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