連載 世界の健康被害・11
大惨事の後で
鎌仲 ひとみ
1,2
1多摩美術大学
2国際基督教大学
pp.900-901
発行日 2011年11月15日
Published Date 2011/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102269
- 有料閲覧
- 文献概要
半年後の汚染地図
東京電力福島第一原子力発電所の事故から半年が過ぎた.徐々にその実態が明らかになるにつれ,海外で報道されている「大惨事」という表現が,より一層,現実味を増してきている.9月6日に日本原子力研究開発機構が「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(通称SPEEDI)による汚染地図を発表した.データ伝送システムが電源喪失のため機能しなかったという言い訳がなされていたが,発表が半年後,というのはあまりにも遅い.
そして,その地図を見て愕然としてしまった.「福島第一原発事故に伴うCs137の大気降下状況の試算-世界版SPEEDIを用いたシミュレーション」と名づけられたその地図によれば,北は岩手と秋田の青森県境,南西方向には静岡県と愛知県の県境,北西には新潟県のおよそ半分,長野県では日本アルプスの手前までに,平方メートルあたり最低100ベクレルから10万ベクレルの放射性Cs137が降下したことになっている.東京も1万ベクレルを超える地域があるし,関東全域がすっぽりと降下地域になっている.特に3月12日には,関東圏で広範囲にわたって1万ベクレルを超える地域が出現している.東北から関東のほぼ全域が,相当の汚染を受けたことが一目瞭然だ.まさしく「大惨事」と呼ぶべき事態だが,マスメディアはほとんどこの発表を伝えていない.SPEEDIに128億円もの血税をつぎ込みながら,本来の目的である住民の避難にはまったく役立てることがなかったことも大きな問題だ.この失態の結果がこれからどう出てくるのか,空恐ろしいばかりだ.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.