連載 厚生行政ホントの話・8
「公衆の」衛生考
椎葉 茂樹
1
1厚生労働省老健局老人保健課
pp.645
発行日 2003年8月1日
Published Date 2003/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100935
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中国を中心に猛威をふるった重症急性呼吸器症候群(SARS)は,公衆衛生全般のみならず,政治・経済面まで大きな影響を及ぼしている.厚生労働省内でもSARS対策を直接担当する健康局などでは,ほとんど休日を返上して,わが国への新たな脅威となった疾患への対応に明け暮れた.少なからず混乱もあったが,わが国では,検疫所,地方自治体,医療機関などの関係者や海外旅行者,出張者やその家族の方々の努力のおかげで,幸いなことに患者発生の報告は届いていない(6月17日現在).これはわが国の「公衆の」衛生のレベルの高さを物語っているのだと,私は思っている.
一方,アジアの超大国である中国の「公衆の」衛生システムは,奈落の底に落下した感がある.中国はおそらく世界で最初にこの新型の肺炎「非典(非典型肺炎)」の患者に遭遇した.本来であれば,人類の新たな脅威となる感染症の発生を,WHOに対して速やかに報告するとともに,全世界に向けて注意を促すべきであった.しかしながら,中国政府は,患者発生のWHOへの報告を約3か月もの間隠し,WHOからの専門家調査団を受け入れず,また,WHOの報告に際して患者の発生数を実際の数より低くごまかすという,信じ難い対応をした.WHOから中国広東省への渡航自粛勧告が出され,中国人の入国拒否や中国へ進出した外国企業の閉鎖,中国への外国人観光客の激減など,問題が拡大するに至って,中国政府は,衛生相ら幹部を更迭し,これまでの対応を修正した.この一連の報道により,国内外での中国の公衆衛生に対する信頼のみならず,行政機構に対する信頼も失うことになったと私は思う.
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