連載 統合化を模索する国際保健医療政策・3
妊産婦死亡削減を目指す安全な母性の保健医療政策(SMIとEmOC)
湯浅 資之
1
,
柴田 貴子
2
,
中原 俊隆
3
1国立国際医療センター国際医療協力局
2国際協力機構フィリピン国母子保健
3京都大学大学院医学研究科健康政策・国際保健学教室
pp.818-821
発行日 2006年10月1日
Published Date 2006/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100669
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毎日,世界のどこかで500人乗りのジャンボジェットが3機墜落し,その搭乗者全員が死亡する.搭乗者のすべては女性で,その多くが人生の最良のときにあり,幾人かはまだ十代の若さである.彼女らは皆妊娠中か出産直後であり,そのほとんどが家庭で子どもを育てており,家族は彼女らに大きく依存している.だが,これだけ重大な事件にもかかわらず,報道はほとんどされず,話題にもされないのはなぜだろうか.妊産婦死亡に対して世界が冷酷なまでに無関心である惨状を,1980年代半ば世界保健機関(WHO)はその広報誌上でこのように表現した(一部筆者改変)1).
同じ時期に米国コロンビア大学のMaine Dらは,近年母子保健活動(MCH)が注目されてきているが,母親の健康(M)はどこに行ってしまったのだろうか(Where is the M in MCH?)と問い,妊産婦死亡削減の対策がほとんど進んでいない現状を世に訴えた2).
現在世界では毎年,15~49歳までの女性のうち約60万人が,妊娠や出産に関連した疾患や合併症が原因で死亡している3).世の中が彼女らの死にようやく注目するようになって,まだ20年にも満たない.このため,妊産婦死亡と産後障害を削減する活動の歴史は浅く,国際保健医療政策上,議論に混乱も見られ,具体的政策は模索の現状にある.
本稿は政策形成の歴史を展望する中で,現在中心的に行われている母性に関する政策とその課題について考察したい.
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