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古来,人類は病原体の脅威と対峙してきた.ペストや天然痘がその最たるものであるが,消化管感染症で過去に最も猛威を振るったのはコレラである.人類の移動に伴い全世界を駆け巡り,幾度もパンデミックを引き起こした.本邦でも江戸文政年間から明治時代,大正時代前半にかけて度々流行し大量の死者を出した.しかし,その後は疾患の理解と衛生概念の普及により致死的な消化管感染症はなりを潜めた.現在,消化管領域の感染症で特に重要なものとしてはH. pylori(Helicobacter pylori)感染症,C. difficile感染症〔Clostridioides(Clostridium)difficile infection ; CDI〕,腸結核,カンピロバクター腸炎,アメーバ性大腸炎,ノーウォークウイルス感染症が挙げられる.
19世紀末は細菌学の黄金時代であり,病原細菌が次々に発見された.先駆けとなったのはKochであり,1882年に結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を発見し,1884年にはコレラの原因菌を特定している.この時期には菌の属名に発見に貢献した研究者の名前(括弧内)が付けられていることも多い〔サルモネラはSalmonella(Salmon),大腸菌はEscherichia(Escherich),赤痢菌はShigella(志賀),エルシニアはYersinia(Yersin)〕.20世紀に入ると新たな病原菌の発見は激減した.終戦間もない1950年に,大阪府泉南地方でのシラス食中毒事件を契機に藤野らが腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)を発見したが,これは欧米で魚を生食する習慣がなかったためである.
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