書評
発達とトラウマから診る精神科臨床—青木 省三 著
内海 健
1
1東京藝術大
pp.225
発行日 2026年2月15日
Published Date 2026/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.048812810680020225
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00年代に入って間もないころだったか,精神医学の潮流が明らかに変わったと思わされた,ささやかなエピソードがある。入院中の統合失調症の青年が,「幻聴よりいじめのほうがこわい」というのである。いじめというのは,被害念慮によるものではないのかと思ったが,そうではなかった。フラッシュバックに苛まれていたのである。自分というものの存立を内側から転覆させるような統合失調症の症状より,現世的な問題のほうが,彼の心にとって危険なものだったのである。
かつて精神医学には「器質性→内因性→心因性」という確固たるヒエラルキーがあった。今でもその重要性は変わらない。そう思いつつも,昨今の臨床現場ではもう一枚,マップを携えておかなければならないように思う。それは本書のタイトルにもあるように,発達障害とトラウマである。この2つを古いマップに無理矢理当てはめれば,発達障害は器質性,トラウマは心因性となる。それ故両者は一見すると,対極にあるようにみえる。発達障害は,発達早期から現れる脳機能の偏奇であり,トラウマは心の傷である。だが,現場の感覚としては,この2つはどこかでつながっているように思える。あるいは相互に浸透していると言ってもよいかもしれない。実際,発達障害はトラウマを被りやすく,トラウマは発達や脳機能に影響を与える。このあたりのことを著者は「発達⇄トラウマ」という絶妙な表記で示している。

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