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これまでがん生物学・医療と神経科学の関係は,脳転移などがん細胞の神経組織への浸潤・破壊という一方向性かつマクロ視点での議論が中心であった。『生体の科学』2023年74巻4号で特集「がん遺伝子の発見は現代医療を進歩させたか」を筆者が編集させていただいた折の結論は「進歩を持続的なものとした」であった。そして,原発巣がん組織に登場する細胞集団の質的解析は,免疫関連細胞をはじめとする多様な細胞が特定の分子群によって動的な状態を付与されているがん微小環境の研究として近年急速に進み,細胞外RNAをも含むそれら分子群の仲間入りをしたのが,特にヒトにとって漠然と表現される“ストレス”に関連するステロイドホルモン,自律神経系の神経伝達物質などである。同様な状況が原発巣だけでなく,筆者らが主張している「転移巣となることが運命づけられているもののがん細胞がまだ存在しない組織,すなわち転移前微小環境」でも発生している証拠が集積し始めている。2023年『Nature』に掲載された総論「がんの神経科学」では,「神経系はがんの重要な調節因子として注目されている」と記されていることからも,そのように解釈し断言できるだけの科学的証拠が蓄積している。
前述の“がんと神経”という大きな視点と同時に,本稿では“一臓器の恒常性維持ホメオスタシス(homeostasis)”という第2の大きな視点に立って議論したい。恒常性の維持は,該当臓器の在住細胞と移動を伴う免疫系細胞によって生理的レベルでなされており,筆者らはこれを「自然炎症」と提唱してきた。転移前微小環境形成は自然炎症の破綻と考えている。転移前微小環境として肺に焦点を当てる。肺の恒常性維持の担当系として免疫系以外に神経系に関しても議論する。内受容感覚(interoception)という古い言葉が再認識され,求心性と遠心性神経回路による監視機構が明らかになってきている。最後に創薬に関する私見を述べる。

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