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はじめに
わが国は,急速な高齢化が進行しており,高齢化率は2050年には36%に達する見込みである(内閣府,2024)註1。これにより,医療費・介護費の増大,人手不足,社会保障制度の持続可能性といった深刻な課題が顕在化している。すべての住民が「生きがいや役割を獲得し,健康で活躍できる社会」(健康活躍社会)の実現には,地域保健分野における効果的な情報共有システム(ISS)の構築と,具体的な方策の検討が不可欠である。
近年のICT技術の飛躍的な発展とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により,保健医療システムにおける健康情報の共有や,包括的な健康管理・予防対策への新たな可能性が開かれている。
内閣府が示す「Society5.0」では,個々人の生体計測データや医療情報などのビッグデータをAIで解析することで,生活支援ロボットの活用,リアルタイムの自動健康診断,そして生理・医療データの共有による適切な治療の提供が可能となるとされている(内閣府,2025)註2。
しかしながら,地域保健分野におけるICT活用は,業務負荷やマネジメントの課題により,その効果が十分に発揮されているとは言い難い現状がある(赤塚ら,2025)。本稿では,情報共有システム(ISS)やICTは,地方自治体の保健活動のみならず,産業保健,学校保健,在宅看護の領域全体に対し,活動の質と公平性を高めるための戦略ツールとなっていることを論じる。すなわち,地域保健分野における情報共有システム(ISS)やICT活用が,記録のデジタル化にとどまらず,サービスの公平性の確保やデータ分析に基づく戦略立案,専門職の業務負担の軽減につながるツールとなることを論じる。
また,これらのツールは地域住民の健康を守ること,生きがいや役割獲得を通じたウェルビーイングの向上につながることを示す。加えて,情報共有システム(ISS)やICTの恩恵から誰一人取り残されない包摂的な健康活躍社会の実現に向けた看護職の役割について考察する。

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