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ドライアイリサーチアワードも2004年より始まり,今回で18回目。本邦のドライアイ研究の発展のため発足したリサーチアワードはこれまで多くの研究・研究者を生み出してきた。今回も3名の受賞者があったが,そのなかでベストリサーチアワードには僅差で選ばれなかったものの,優れた論文を作成されたお二人の先生に,今回,研究の成果をご紹介いただいた。お一人目の先生は現在,若葉・さくらいクリニックの院長で防衛医科大学校眼科の非常勤医師でもある櫻井裕先生である。先生はマウスを用いてprogrammed cell death-1(PD-1)経路が阻害されると涙腺炎が増悪することを明らかにした。それによると,PD-1ノックアウトマウスでは,通常ではみられない生後3ヵ月から涙腺炎が出現し,その後重症化していくということが明らかになっている。それに従い,涙液分泌量はやはり減少している。ここで興味深いのは,3ヵ月から6ヵ月に従い,PD-1ノックアウトマウスでは通常マウスに比較し涙液分泌量は低下しているが,オスではその影響がわずかであるのに対しメスではその低下が著明で雌雄で大きな違いをみせており,ある種ヒトでのドライアイにも通じるものがある点である。さらに先生はこの現象の詳細な検討を行い,涙腺に浸潤しているリンパ球はTリンパ球が主体で,CD4ではインターフェロン(IFN)-γ産生が高く,Th1優位であること,また,興味深いことに涙腺炎を起こしている涙腺ではPD-1のリガンドであるPD-L1およびL2の発現が少なくなっていた。つまり,涙腺炎が起きている涙腺では自然死する細胞過程が妨げられるということである。このことは涙腺炎が増悪する原理とも受け取れる。またこうしたPD-1の影響は涙腺組織ばかりでなく,リンパ球へも影響し,PD-1ノックアウトマウスのCD4+リンパ球を放射線処理したマウスへ移入すると,PD-1が発現される正常のCD4+リンパ球移入より著明に涙腺炎を惹起していた。2つを合わせるとPD-1の発現の有無で涙腺炎の重症化に多大な影響があることを示している。先生のさらなる研究拡大により治療的な提言があればと期待している。
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