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本年(2017年)6月に神戸港で「ヒアリ」が発見され,「アリに刺され,強い痛みや重篤な症状の患者を診察した場合,保健所へ連絡するよう」との通達があり,病院事務から,患者が受診した際は感染制御部(インフェクションコントロールチーム:ICT)から保健所に連絡してほしいと相談があった。 ICTの重要な使命は,医療関連感染の発症を未然に防ぎ,発生した場合は拡大を阻止することである。そのために,耐性菌や抗菌薬の使用状況を監視し,交差感染を防止する策を講じ,サーベイランスを行い,週1回以上の病棟ラウンドを行い,感染対策マニュアルを作成し,針刺しへの対応を行っている。たくさん受ける相談の中には,「ハトが死んでいます」や「ハエが窓から侵入しました」などもある。ハトは複数のトリが死んでいないか確認後,手袋をして処分するが,ハエには殺虫剤を片手に現場に駆けつけるしかない。イノシシ(六甲山に生息して,時々市街地に下りてくる)やヘビが出たとの相談もありそうだが,できたら,消毒薬や抗菌薬で戦える範囲にしていただきたいと思っている。感染症は環境と密接しているのも確かで,人間以外のすべての生物の対応をICTに求められている時代になったのかもしれない。 一方,病院内の改修工事は感染症と深い関連があるため,事前にICTと協議することが重要である。アスペルギルスはどこにでもいるカビであり,易感染性宿主では重篤な肺炎を起こすことがある。そのため,無菌室,手術室,ICUは,病室を密閉し,十分な換気を保てるHEPA(high efficiency particulate air)フィルターを設置し,陽圧を保てるよう気を使う。工事で生じる粉塵の中には大量のカビの胞子が含まれるため,無防備に工事を行っていると院内でのアスペルギルス症の危険が一気に高まってしまう。そこで,工事区域外に埃を出さない工事手順の契約を確認し,遵守できているか見回ることもICTの重要な役割である。こういった場合,工事の内容と場所はどこかでリスク評価(Infection control risk assessment:ICRA)を行い,その2つの組み合わせから4段階別の対策・対応を実施してもらう。「工事期間に実施すべきこと(工事区域の密閉の必要の有無と方法,作業区域を陰圧にする方法)」,「工事終了後に実施すべきこと(機材撤去,粉塵除去,清掃)」なども規定されている。天井は埃が溜まっているため,小規模な配線工事でも高レベルの感染対策が必要になってくる。ICRAの詳細は文献や成書を参照いただきたい。 工事の発注者は各診療科から本部や本学までとさまざまで,施行の依頼部署が違うとICRAが不十分なことがあるらしい。施設を管理する部署と上手に連携をはかっていたつもりでも,そこを介さず行われる工事があるためである。ICTの業務は横断的で,医療スタッフ以外,事務や工事関係者への介入も重要である。人間関係を円滑に維持し,その時点で最良な策を理解しやすいように説明し,説得できるスキルもICTには必要である。人間以外の生物よりも人間への対応がよほど難しい。