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染色体異常を修復して関連疾患を根本的に治療することは,人工染色体や重要な遺伝子機能を導入するなどのアイデアが創出されてはいるものの,現在の技術ではまだ不可能である.しかし,患者自身の細胞から作製されるiPS(人工多能性幹)細胞(疾患iPS細胞)は様々な染色体異常を通常保持しているので,その病態を培養条件下で再現し,解析することが可能になった.一方,筆者らはリング(環状)染色体を持つ体細胞からiPS細胞を作製した際に,リング染色体が消失し,高頻度に正常核型を持つ片親性ダイソミーに変化することを見いだした.リング染色体は一般的に同一染色体の長腕と短腕の末端の欠失を伴って融合することで形成される.1926 年にLilianVaughan Morgan がショウジョウバエで,ついでBarbaraMcClintock がトウモロコシで発見した古典的な染色体異常の例として知られており, ヒトではリング染色体の臨床例が1962年から相次いで報告され,これまでに先天性疾患やがんへの関与が知られている. しかし,再現性良く作製可能なモデルがなく,その挙動や機構については未解明な点が多い.そこで,筆者らはリング染色体(13 番と17 番)の患者からiPS細胞5) を作製した.予想に反し,作製されたiPS細胞株のほとんどはリング染色体を失い,正常核型を示していた.STR-PCR解析により,これらのiPS細胞株が元のリング染色体を持った患者の体細胞由来であること,また未分化様形態を維持し,順調に増殖することが確認された.さらに,多能性を有することを胚葉体とテラトーマそれぞれの形成による三胚葉分化誘導実験で確認した.なお,iPS細胞作製に使ったエピソーマルプラスミドDNAのゲノムへの挿入は見られなかった.以上の結果から,この正常核型のiPS細胞が正常な自己複製能と多能性を有していることが示された.SNPアレイを用いて各SNPがヘテロ接合か,ホモ接合かどうかを解析したところ,iPS細胞株の該当する染色体全域のSNPがホモ接合であることが示された(他の染色体ではヘテロ,ホモ接合が混在していた).この結果は,正常核型を示すiPS細胞株の染色体が,リング染色体ではない,もう片方の完全な染色体から染色体不分離によって重複した片親性ダイソミーであることを示している.また,17 番リング染色体由来の正常核型iPS細胞において,リング染色体により欠失している染色体領域中の遺伝子のタンパク質発現量を解析したところ,野生型のiPS細胞と同程度に回復していた.それは,片親性ダイソミーとなった2 つの染色体それぞれから正常にタンパク質が発現されていたことを示している.
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