第2特集 食べることに,そっと関与する
食べることへのかかわりかた
似顔絵が“食べたい”心を動かした日
-─似顔絵セラピーの現場から─
村岡 ケンイチ
1
1医療とアートの学校
pp.1734-1736
発行日 2025年12月1日
Published Date 2025/12/1
DOI https://doi.org/10.15104/th.2025130018
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はじめに
筆者はこれまで全国の病院を巡り,年間50件近くの現場で似顔絵セラピーを行ってきた.小児科,精神科,循環器内科,リハビリ病棟.病室ごとに出会う患者は異なり,語られる物語もまた一人ひとりに固有である.似顔絵セラピーの核心は,ただ顔を描くことではない.40 分ほどかけて患者の人生をじっくり傾聴し,その記憶や思いを背景として描き込むことである.制作は1 時間ほど.完成した絵は,その人の「過去・現在・未来」を映し出す一枚の風景画となる.
そこに表現されるのは患者本人の物語であり,医療者の方であっても診療中の限られた時間のなかでは,単独で引き出すのが難しいこともある.
似顔絵セラピストは聞き役であり,共同制作者である.患者の心の奥に眠るキーフレーズを探し出し,人生の物語を肯定的に可視化する.それは本人にとって「自分はこう生きてきた」という再確認であり,家族や医療者にとってはその人を深く理解するための新しい窓になる.
こうしたかかわりのなかから,患者が「食べられるようになった」事例がある.ここでは,ある登山家の患者の物語を紹介したい.

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