特集 生物進化の分子マップ
6.核
転写因子から見た咽頭器官の起源と進化
小笠原 道生
1
Michio Ogasawara
1
1千葉大学理学部生物学科
pp.376-377
発行日 2006年10月15日
Published Date 2006/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100270
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咽頭器官としての鰓裂・内柱
咽頭は,解剖学的には口腔と食道の間にある消化管の一部分が膨らんだ領域を指し,脊椎動物のみならず後口動物全般で,さらには線形動物,節足動物,扁形動物,有櫛動物といった多くの動物群に存在する。その中でも,われわれヒトとしてはやはりヒトを含む脊椎動物の咽頭に興味が向くところであり,この咽頭がどのように進化してきたのかを理解するためには,脊椎動物および近縁の動物を用いた咽頭研究が鍵となる。
脊椎動物に近縁な動物群としてはホヤやナメクジウオが知られているが,これらの動物群は脊椎動物と同様に脊索を共有することから,脊索動物の中でも原始的な体制を保持した下等脊索動物として捉えるのがわかりやすい。脊索動物を特徴づける形質としては脊索のほかにも,脊索の背側の神経索,肛門の後ろの尾,咽頭壁の裂け目である鰓裂,咽頭腹側の分泌線である内柱などがあり,これらの形質それぞれについての理解を深めることが,脊索動物の基本体制(ボディープラン)の起源と進化を考える上で重要となる。本稿では脊索動物が共有する形質のなかでも,下等脊索動物の咽頭器官である鰓裂ならびに内柱に焦点を当て,これらの器官で発現する転写因子と咽頭器官の進化について考えてみる。
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