- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
1990年代後半、ポリファーマシーを正確に理解している臨床医は少なかった。「聞いたことはあるが」という臨床医が多く、明確な問題意識をもち改善へ動く医師は少なかった。新しい観点からの画期的な動きは、未経験なものへの不安や誤ったプライドで否定されるのが世の常である。20年ほど経過した今では「ポリファーマシーを知らない臨床医」はほとんどいない。
30年近く前に私自身は、プライマリ・ケアにおける「医薬品の適正使用」に関心をもち「多剤併用(ポリファーマシー)」「潜在的に使用を避けるのが望ましい薬剤(potentially inappropriate medications:PIMs)」を研究し始めた。その後、米国留学先でMark H. Beers先生から薫陶を受ける幸運に恵まれた。帰国後2008年にBeers先生と共著でPIMsの考え方に基づき、evidence-based medicine(EBM)に則ってデルファイ法により日本版Beers基準を作成し発表した1)。一部の先生方には絶賛していただいたが、本質的に保守的な医療界にはあまり受け入れられず、荒唐無稽な批判を受けた。だが、私は一切反論しなかった。正しいことは必ず認められる時がくる。さまざまな動きがあり10年ほど経ってから、Beers先生の基本的な考え方を踏襲した医薬品の適正使用の方法が、医療界で手のひらを返したように推進されることになった。2017年に、政府主導で委員会が構成されてポリファーマシー対策が積極的に議論され、日本医師会から『超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き』が発刊された2)。その後、拙著も10年ぶりに改訂版を上梓した(→p.1138)3)。
Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.