連載 下実上虚・8
最近、仕事中になんとなく元気が出ない
西川 勝
1
Masaru Nishikawa
1
1大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
pp.78-79
発行日 2005年7月1日
Published Date 2005/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100124
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- 文献概要
ある看護師のため息
最近、仕事中になんとなく元気が出ない。
生ぬるい温泉に浸かり続けているような気分。心地よいような、それでいて自分がダメになっていくような。状況を変えようと思うほどの動機やあせりもない……。けだるい気持ちを抱えながら仕事をしていくのがなんとなくつらい。
[ベテランナースAの頭の中]
朝仕事場に来て白衣を着ると少しだけ気分が高揚する。早めに病棟に入ると、まだ新人の深夜勤ナースが駆け寄ってきて「採血がうまくできない患者さんがいて」と涙目に訴える。病室に行くと患者は不機嫌な顔で新人ナースをにらんでいる。何度も失敗したのだろう。患者の腕には皮下出血の紫斑がある。後輩に代わって「私にさせてください」と患者の了解を求め、ゆっくりと駆結帯を巻く。目で見るのではなく、指先の感覚で皮下の血管を探る。血管を見つけて採血針を血管に刺す瞬間は、指先の感覚が針の先端に届いている。「あぁ、助かったよ」という患者に、ほんの少しだけ微笑んで病室を出る。要領を得ない新人ナースの申し送りにも、苛立ちを見せず適当に質問しては、大切な情報を確認する。看護師長も安心してリーダーを任せられるベテラン。それが、私。今日も病棟にはいろんなことがあるだろう。でも、多分うまくこなせるはずだ、あの採血のように。
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