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Essay
文献 色とりどり
今江 祥智
pp.226-230
発行日 1986年4月15日
Published Date 1986/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200874
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もう30年以上も前のことになる。わたしは高杉晋作という幕末の青年の生きっぷりに惹かれていて,晋作の伝記類や,晋作が描かれている小説などを探していた。当節のように,明治維新期についての研究書がどっさり出版されていなかった頃のこと,京,大阪の古書店で丹念に探すしかなかった。旅行の折にも土地の古書店を必ず訪ねて探すのである。それでも大阪の老舗,天牛書店などの棚には,大正5年発行の『高杉晋作』1)(横山健堂=著)や,昭和2年発行の『高杉晋作』2)(渡辺霞亭)が見つかって,こちらを喜ばせてくれた。古書店になじみになる程通うには,こちらはまだ若すぎ,具体的に何を書くためにどう使うかといった直接の目的がないままだから,おやじさんに頼んでも本気に相手にしてもらえるわけもない。とにかくこちらがこまめに店まで足を運び,棚の一冊一冊を見ていくしかなかった。それでもまた『松陰と晋作』3)(伊藤痴遊)や『高杉晋作』4)(森本覚円)といった未見の本も入手できたし,いかにも戦中の本らしい『志士の精神』(和田健爾)といった本やら,海音寺潮五郎の小説も手に入った。ただ肝心の晋作自身の書いたものが見つからない。
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