解説
公害と医療従事者(1)
青山 英康
1
1岡山大学医学部衛生学教室
pp.86-92
発行日 1971年1月15日
Published Date 1971/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200227
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はじめに
毎日の新聞・ラジオ・テレビで報道される"公害"の実態と,公害の被災地に生活する住民が認識し,意識している"公害"との間には,非常に大きな隔りがあるのを感じさせられる。その意味で現在の公害運動はマスコミによって作られたものであり,マスコミが方向転換をすれば,大部分の運動がこれと行動を共にするのではないかという不安を感じざるをえない。なぜならばマスコミは公害の実態は報道しえても,決して公害をなくすための行動提起まではするはずがないからである。この点マスコミによる公害の実態の認識ではなく,自分の毎日の生活の中に自分の目と耳と,そうして頭で公害の実態を正確に把握することを抜きにしては公害をなくす運動はできないであろうし,このような運動の欠如が今日の"公害列島――日本"を作り上げたと言えないだろうか。
現在われわれにとって重要なことは,マスコミが騒がなくなったとき,そうして周囲の人たちが"公害"ということばを忘れようとしている時にこそ,"公害"の何たるかを訴え続けうる勇気と力を持つことではないだろうか。これは筆者自身の反省のことばであり,現在"公害"について語ろうとするとき,衛生学という"公害の発生を予防すべき"分野の学問を専攻しながら,公害の事前防止になんらの貢献をなしえなかったことに対する全被災者への謝罪でもある。
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