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筆者は,本誌39巻4号(2006年)の特集「認知症高齢者の尊厳を維持する看護研究」において,「Person-centred Careと認知症ケアマッピングを用いた研究の動向と看護研究の課題」を執筆した。その後,7年が経過し,わが国でもPerson-centred Careは,さらに注目されるようになってきた。しかし,単なる「個別ケア」等と同様の意味で使用されたり,さまざまにケアの理念などとしても用いられている。そうした「Person-centred Care」が認知症高齢者の現実のケアからかけ離れ,特に看護において,「Person-centred Care」の本来の意味が十分に周知されず,正しく理解されていないのではないかという懸念を,筆者は感じてきた。そのことが,本特集を企画した契機である。
Person-centred Careは,英国の老年心理学者Tom Kitwoodが最初に提唱した,認知症の人々の立場に立つ視点を重視する認知症ケアの理念である。現在,世界中に普及しており,英国やオーストラリア,スウェーデンにおいては,政府のケアガイドラインなどにもこの理念が記されている。また看護理論においては,Abdellahが提唱した「患者中心の看護」はPerson-centred Careと共通する部分がある。しかしこれは,看護師─患者関係があくまでも患者役割を担う個人と看護師という枠組みの中にとどまっている。本来のPerson-centred Careでは,ケアを提供する人とケアを受ける人の枠を超え,人々に寄り添い信頼し合う相互関係の中から人を尊敬し,その人のニーズに注意深く対応して,その人の能力を発揮できるよう支援することを重視する。認知症の人々の「パーソン」の部分,つまりその人そのものの個人の価値(尊厳)や生きる意味の価値を尊重し,ともに寄り添い合う人間関係が,認知症の人の抱える多くの課題やニーズを解決するという立場をとる。超高齢化社会のわが国における認知症高齢者のさまざまな課題も,看護師が認知症の人に求めるニーズにいかに真摯に向き合うことができるかにかかっているといえよう。
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