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転倒・骨折は,寝たきりなどの要介護状態の原因の1つでもあり,加齢に伴う廃用症候群に関連して発生し,健康寿命やQOLを低下させるなど高齢者の生活を脅かす大きな要因になっている。さらに転倒は老年看護学の課題であるばかりでなく,看護の質評価指標として,看護ケアの質に影響する重要な課題でもある。転倒に伴う医療・介護費用を大腿骨頸部骨折から算出すると1年間の医療費は1556億円にのぼり,そのうち寝たきり状態になることやその後の余命なども含めて計算すると,転倒・骨折による医療費・介護費は1年間に7277億円となり,国の総医療費・介護費の5%を占めるといわれている。現在,わが国の高齢化率は21%を超えて,世界の主要国のなかではじめて超高齢社会に突入した。高齢化率は2015年には25%,2035年には30%を超えるともいわれる。これは後期高齢者医療の課題にとどまらず,医療,福祉システムの再編などの点からみても,転倒・骨折に関する課題はさらに人々の生活を脅かすことが予想される。
欧米では,転倒予防研究は,看護ばかりではなく公衆衛生,整形外科,理学療法などさまざま分野の研究テーマとして取り上げられ,無作為化比較試験(RCT)を中心に質の高い研究が展開されている。最近ではコクランライブラリーや『British Medical Journal』などで転倒予防に関するレビューが数多く注目されているが,その反面,転倒予防に関する看護介入では画一的な介入がとりにくく,その人のリスクの状況に合わせた個別介入が必要とされる。特に転倒予防を最大限効果あるものにするための個人のリスクや個人的背景の分析,また異なった施設でも実現可能なケアの基準の明確化などが今後の課題である。さらに,転倒予防は患者の尊厳,看護ケアの質やケアシステムなどといったさまざまな課題を内包しているため簡単に解決できるものではなく,今後も継続して取り組んでいかなければならない。
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