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はじめに
睡眠は,本人の心身の健康のみならず,家族や介護者のQOLにも関わる重要な課題といえます。日本における不眠が引き起こす作業効率低下による経済損失は3兆665億円,欠勤などの経済損失は1616億円,交通事故による経済損失は2413億円にのぼると試算される(2006年6月8日付,日本経済新聞夕刊)と報告されています。睡眠不足や睡眠障害は,免疫機能低下や高血圧,肥満,老化,生活習慣病リスクとも関係していることや,うつや不安,意欲など心の健康や脳機能にも影響し,記憶・学習,注意力や集中力のほかひらめきや感情コントロール機能も低下させることが,最近の睡眠科学の急速な進歩とともに,実証されつつあります。
しかし,これまで日本には睡眠科学・医療に関する継続的な教育機関が存在しなかったこと,睡眠や眠気を蔑視する傾向などから,一般国民のみならず,医療,保健,教育関係者にも睡眠学の正確な知識は,アメリカやEU諸国に比べ,十分に浸透していないようです。最近,睡眠に関するハウツー本も急増していますが,知識を断片的に得るだけでは,実生活上の応用,つまり,よい睡眠をとったり睡眠を改善したりするために的確に対処することが困難です。
本連載では,睡眠と心身の健康,脳機能について概説するとともに,睡眠改善技術(睡眠の確保に有効な技術)を地域保健現場や教育現場での実践例を交えて,紹介していきます。特に,睡眠改善を支援するのに必須とされる,(1)適正な知識の普及,(2)支援ツールの開発と提供,(3)睡眠の評価法,(4)睡眠改善支援の技術をもつ人材の育成に重点をおいて解説します。
今回は,日本人の睡眠事情,睡眠と健康,睡眠と能力発揮について,脳科学や時間生物学の視点も交えて考えてみます。
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