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―胎児異常による人工妊娠中絶 その語られざる世界―『誰も知らないわたしたちのこと』作者シモーナ・スパラコさん講演会
河合 蘭
pp.720-721
発行日 2014年8月25日
Published Date 2014/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665102887
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出生前診断の小説であること,そして『誰も知らないわたしたちのこと』(紀伊國屋書店,2013)というタイトルであることを知れば,多くの人はそれだけでこの小説が何について書かれたかがわかるだろう。本書は,カソリックの国イタリアで書かれた人工妊娠中絶の小説なのに,ベストセラーになって大きな関心を集めた。さらにローマ賞を獲得,イタリア最高の文学賞・ストレーガ賞の最終候補作品にもなるという高い評価を得た。
本書の主人公は,「光」を意味するルーチェという名前をもつ35歳のジャーナリスト。女性たちの悩みに答える連載コラムは大人気だ。しかし,5年間の努力の末,やっと妊娠することができた子どもは超音波検査で致死的な「骨格異形成」と診断される。自分の国で人工妊娠中絶が可能な週数を超えていたため,ルーチェと夫は英国に渡り,長くトラウマを残す体験に耐えることになる。中期の人工妊娠中絶については一部始終が詳細に描写されている。私が特に衝撃的だと感じたのは,胎児の心臓に薬剤を注入して安楽死をさせる心腔内注射の場面だった。
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