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はじめに
劇作家は「会話」も「対話」も,場面として書きますので,この稿では「セリフのやり取り」をいくつも出して,「会話」と「対話」の違いや機能,トレーニングの仕方などを解説していきます。
次の,2つのパターンのセリフのやり取りを,まずはお読みください。
《やり取りA》
男「せっかくの週末だし,どこかに行きたいなあ」
女「うーん,お腹すきそう」
男「あ,食パンの賞味期限が切れかかってたような……」
女「えー,フレンチトーストつくってー」
男「帝国ホテルのフレンチトーストって,汁に24時間も漬けとくらしいよ」
女「そこまでしなくていいから早くつくってよ」
男「ない」
女「へ?」
男「パン。全部食べちゃってたわ。忘れてた」
女「なんだそれ」
以上はある男女の典型的なゆるーい会話ですが,それはそれでそういう会話があってもよいわけです。では次です。
《やり取りB》
男「せっかくの週末だし,どこかに行きたいなあ」
女「せっかくの週末であればこそ,平日の疲れを癒したり,睡眠不足を解消したりすべく,家で休息すべきではないかしら?」
男「いや,でも,気分をリフレッシュしたいし……」
女「リフレッシュ?週末のレジャー施設はどこも行列ができて,サービスを受けるのに30分から1時間は待ち時間になってしまうので,肉体的にも精神的にも疲労度が増す可能性が高いわ。私は,家で朝11時まで寝ていた場合の血中の乳酸値を計測しておくから,あなたはあなたで出かけたほうが疲労の回復にプラスになるという根拠を示してちょうだい」
こんな調子では,出かけるにせよ寝ているにせよ疲れてしまいます。
看護師をはじめとする医療従事者にとっては,患者さんとの「会話」も,とても大事でしょう。仕事だから,何でもかんでも対話が大事,というのはちょっと乱暴で,対話が必要なときには対話を,会話がふさわしいときには会話を,とスイッチを切り替えることが重要だという前提で話を進めます。
なお筆者は,医療現場には「患者」としての立場でしか,入ったことはありません。この後には,医療現場での「会話」や「対話」を想定したやり取りのサンプルがいくつか出てきますが,あくまで「医療の専門家ではない」者の想像の産物だとお考えください。
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