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書評 ―『女って大変。働くことと生きることのワークライフバランス考』―学生にも考えてほしい素材に満ちている
信田 さよ子
1
1原宿カウンセリングセンター
pp.415
発行日 2012年5月25日
Published Date 2012/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102081
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70年代から80年代にかけては専業主婦率が高く,結果的に性別役割分業(男は外で仕事,女は家事育児)が一般的だった。あえて仕事をもつ女性は,よほどの貧困かさもなくば女性解放の覚悟をもつ人とみなされた。まして子どもを預けて働くことは,血も涙もないという指弾を覚悟しなければならなかった。働く女性も専業主婦も,当時は文字通り「女って大変」だったのだ。しかしながら,第二派フェミニズムの勃興期の勢いがそれを後押ししたため,子どもを預けて働くことにはどこかパイオニア的使命感があり,それが大変さをやり抜くエネルギーにもなっていた。
その後,男女雇用機会均等法や男女共同参画法の制定を経て,90年代から主流になっていったのが,表向きの男女平等と自己選択・自己責任論であった。女だからという理由で言い訳をすることは卑怯なこととなり,男も女もなく自分の責任に帰せられることが増えた。もちろん働く女性の割合は70年代に比べると飛躍的に増加したが,その裏側で進行したのが「新性別役割分業」である。男性も家事を分担するかに見えて,実は女性が仕事と家事の二重労働を背負うこととなったのだ。本書でも夫の存在はほとんど見えず,仕事ができる女性ほど家族へのケアと仕事の板ばさみになっていることがリアルに描かれている。これほど過酷な二重の負担を背負いながら,それでも「女って大変」となかなか言えない留保・ためらいにこそ,本書の生まれた意義がある。
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