第2特集 看護学生論文―入選エッセイ・論文の発表
エッセイ部門
Aさんと私の“時”
荒木田 知美
1
1茨城県立中央看護専門学校看護学科
pp.624-625
発行日 2011年8月25日
Published Date 2011/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101832
- 有料閲覧
- 文献概要
Aさんは60歳代の男性で,多発性筋炎だった。初めてAさんの病室に入ると,灯りもつけずAさんは1人でテレビを見ていた。そんな雰囲気と父と変わらない年代の人に少し緊張していた私だったが,「少しお話できますか?」と尋ねると,「椅子,使いなよ」とAさんは言ってくれた。『無表情,口数が少ない』これが,私が感じたAさんの第一印象だった。
受け持ち2日目,Aさんは肺がんと告知され,同時に緩和ケアを医師に望んだ。告知後Aさんはどのような思いを抱いているのか,私はうまく関わることができるのか,病室を入るのにドキドキしていた。しかし,Aさんの表情はひとつも変わっていなかった。変わったことと言えば,全量食べられていた食事が,1割程度に激減したことだった。Aさんは「どうして食べられないのかわからない。どこも悪くないのに」と自分の変化に戸惑うような言葉を繰り返した。私はAさんがきっと辛い気持ちを抱えているのではと思い,「なにか不安に思っていることはありませんか?」と勇気を出して聞いた。しかし「不安なんて全然ないよ」という言葉しか返ってこなかった。Aさんは「他の人の力は借りない。自分で解決できることは解決する」といつも言っていた。きっと,告知に動揺した気持ちも自分でコントロールしようとがんばっていたのだと思う。しかし身体は正直で,それが食事摂取に影響を与えていたのかもしれない。
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.